PHASE 7 · LESSON 1

伸ばす前に、
事業の数式をそろえる。

0→1で売れたあと、いきなり採用・広告・アプリ開発へ走りません。まず競合が「どんな価格・人数・利益構造で伸びたか」を比較し、自社の100人→1,000人→1万人のP/Lを描きます。

今日のゴール:比較する競合、スケール時のP/L、今のボトルネック、従業員・パートナーへ共有する一枚を決める。

事業の数字を確認するロイ
01 · THE THIRD LOOK

これは「3回目」の競合分析

この教科書で競合を見るのは3回目です。同じ「競合分析」という名前でも、持っている物が違うので、まったく別の作業になります。

Phase 1
業界選定

この業界で、誰と戦うことになるか

業界を選ぶための材料。まだ何の数字も持っていない。仮説だけ。

Phase 2
顧客検証

顧客は、誰と比べて買うか

顧客の頭の中の比較対象。競合だけでなく「家族に頼む」「何もしない」も相手。

Phase 7
いまここ

その事業モデルは、現実にどんな数字で成立しているか

売上・利益・人員・獲得コスト・資本。0→1を終えて自社の実測を持ったいま、競合の数字は初めて「自分への問い」になる。

創業前の計画が甘いのは、欠陥ではなく構造

実測を持っていない段階の競合分析や事業計画は、どうしても「読み物」で終わります。それでいい——ただし絶対条件が1つ。小さく始めて、撤退できる形にしておくこと。甘い仮説のまま大金を投じるのは、この話とはまったく別物です。小さく市場に出て、自分のCPL・CAC・CVRを取ってから、本物の戦略を作る。Phase 7はその「本物を作る」段階です。

02 · WHAT SCALE MEANS

スケールは「大きくすること」ではない

売上、人、広告費、機能を増やすだけなら拡大です。スケールとは、同じ価値提供をより多くの顧客へ届けながら、利益と品質を壊さず再現できる状態を作ることです。

売上

売上だけ増える

原価・広告費・人件費が同じ速度で増えれば、会社には利益が残りません。

社員だけ増える

役割と仕組みがないまま採用すると、会議・教育・管理コストが増えます。

広告

広告費だけ増やす

CACとLTVが合っていなければ、売上を買って赤字を広げるだけです。

開発

機能だけ増やす

顧客が払う理由と関係ない開発は、固定費と保守対象を増やします。

先に「売れる仕組み」を作る。
その後に、人・広告・コード・資金を掛ける。
03 · SPEAK YOUR BUSINESS

事業を言語化できなければ、まだ経営できる状態ではない

人を増やす段階に入ると、経営者の頭の中のイメージを、従業員・パートナーが実行できる形に翻訳する必要があります。次の9つに答えられるか、自分に問います。

  1. 誰が顧客なのか
  2. 何を売っているのか
  3. なぜこの価格なのか
  4. どこから顧客を獲得するのか
  5. いくらで顧客を獲得しているのか
  6. どこで利益が出るのか
  7. 今のボトルネックは何なのか
  8. なぜ今、この仕事をするのか
  9. なぜ今、これはやらないのか
「最初から完璧に説明できなければ事業ではない」という意味ではない

初期は仮説でかまいません。大事なのは、曖昧なアイデア → 言語化された仮説 → 市場で実行 → 実データ取得 → 修正、と進むこと。答えられない問いが見つかったら、それが次に市場で確かめることです。

言語化は、事業を固定するためではない。
市場で間違いを発見し、修正できる形にするために行う。
04 · THREE KINDS OF NUMBERS

数字は3種類に分ける。混ぜた瞬間、計画は噓になる

AIが出した数字や業界平均を、そのまま事業計画の「事実」にしません。すべての数字に、どの種類かのラベルを付けます。

① 外部ベンチマーク

競合・業界・市場で確認できる数字。競合の売上、利益率、ARPU、解約率、資金調達額など。出典を残す。

② 自社仮説

まだ実行していないので仮置きしている数字。「CPL 1,000円想定」「CVR 5%想定」など。仮説と明記する。

③ 自社実績

実際に広告・営業・販売・提供を行って得た数字。件数が少なくても、これだけが自分の市場の現実。

経営判断の優先順位:
自社実績 > 外部ベンチマーク > 自社仮説
例:広告を回して、初めて自分の現実を知る

ある教育サービスは、広告開始前に「CPL 1,000円・広告費10万円で100リード・成約率5%でCAC 2万円」と計画しました。実際に広告を回すと、実測CPLは約2,500円。同じ100リードに約25万円、CACは約5万円——計画の2.5倍です。これは「AIの予想が外れた」失敗談ではありません。広告を実際に回したから、自社の現実の数字を手に入れられた、という話です。AIは仮説を数字にする・シミュレーションする・抜けを探すことには使えます。しかし市場の答えそのものではありません。仮説は、実測で上書きして初めて武器になります。

計画は予言ではない。実行するための仮説である。
数字が違ったら、計画ではなく現実を採用する。
05 · COMPETITOR ECONOMICS

競合比較は、機能ではなく「経済構造」を見る

Phase 1の競合比較は「顧客が何と比較して買うか」を知るためです。Phase 7では目的が変わります。自分が選んだ事業モデルを、現実にどのような会社が、どの人数・単価・利益率で伸ばしたかを調べます。

顧客競合

同じ顧客の、同じ課題を取り合う会社・商品。比較検討される相手。

収益モデル競合

買い切り、サブスク、受託、店舗など、同じ「お金の取り方」をする会社。

スケール競合

人・広告・コード・資金の使い方が、自社の目指す経営に近い会社。

比較項目見る数字なぜ必要か
商品・価格単価、買い切り/サブスク、無料枠、アップセル必要な顧客数とLTVが決まる
売上・利益売上、営業利益、利益率、赤字期間「売れている」と「儲かっている」を分ける
人員正社員、外注、メンター、店舗スタッフ固定費と提供能力の上限を推測する
顧客規模登録者、有料顧客、継続会員、法人社数無料ユーザーと課金者を混同しない
1人あたり効率売上/社員、利益/社員、顧客/担当者人を増やした時の効率を比べる
獲得構造CAC、CPL、広告比率、SEO、紹介、PLG何が成長エンジンなのかを見る
継続構造継続率、解約率、LTV、再購入売上の質と回収期間を見る
資本調達額、借入、自己資金、M&A同じ成長率でも必要資金が違う
標準化何を人が行い、何を教材・コード・AIに置き換えたか自社が次に仕組みにすべき場所が見える
ケース:Progateとデイトラは、売上規模が近くても経営構造が違う

公開情報ベースでは、Progateは2020年度売上7.27億円、2020年に国内45名、2021年に55名規模。一方、デイトラは2023年2月期売上6.05億円・営業利益1.01億円、2025年2月期売上6.34億円で正社員10名(メンター等の外注は別)でした。どちらが優れているという話ではありません。低単価プロダクト型と、高単価の買い切り教育型では「必要な顧客数・人員・投資」が違う、という材料にします。

競合の人数だけを見て「10人で6億円売れる」とは判断しません。正社員と外注、会社全体と一事業、営業利益と純利益、登録者と有料顧客、実績値と推計値を必ず分けます。
06 · NORMALIZE THE DATA

同じ物差しに直してから比べる

比較の精度は、数字の多さより「定義をそろえたか」で決まります。条件が違う数字を横に並べると、経営判断を誤ります。

実績と推計を分ける

公開売上とCAGR逆算、会社発表と第三者推計などを同じ扱いにしません。

期間をそろえる

月次、年度、決算期、コロナ特需など、比較期間の違いを明記します。

人の定義をそろえる

正社員、業務委託、メンター、アルバイト、海外拠点を分けて見ます。

利益の定義をそろえる

粗利、EBITDA、営業利益、純利益、調整後利益を混同しません。

07 · 100 → 1,000 → 10,000

100人、1,000人、1万人のP/Lを先に描く

「1万人集めたい」ではなく、その人数になった時に、いくら売れ、何にいくら払い、何人必要で、いくら利益が残るのかを計算します。スケールするほど、事業モデルの弱点は大きくなります。

項目100顧客1,000顧客10,000顧客確認すること
売上ARPU×100ARPU×1,000ARPU×10,000単価と継続期間は現実的か
変動原価提供原価×100×1,000×10,000人が増えるほど原価も増えないか
顧客獲得費CAC×新規数CAC×新規数CAC×新規数広告を増やしてCACが悪化しないか
人件費必要人数×総人件費必要人数×総人件費必要人数×総人件費採用・教育・管理も含むか
固定費開発、家賃、SaaS同左同左+増強スケール前に重い固定費を抱えていないか
営業利益売上−費用売上−費用売上−費用何人で黒字化するか
提供モデル単価100人の時1,000人の時1万人の時ボトルネック
A|マンツーマン型高単価少人数でもキャッシュが作れる講師・担当者の採用が必要人の提供能力が上限になる
B|買い切り講座型中〜高成立する教材を標準化すればレバレッジが効く集客力と教材の質が問われる集客
C|月3,500円アプリ型低単価売上が非常に小さい開発・広告・CS費で赤字になり得るコードのレバレッジが効き始める大量獲得の仕組み
アプリが悪いのではありません。「低単価アプリを選ぶなら、大量顧客を獲得できる仕組みが先に必要」ということです。どのモデルを選ぶかは優劣ではなく、「自分はどの会社になりたいのか」の選択です。
例:月3,500円のアプリ

年間ARPUを4.2万円と置けば、100人で年商420万円、1,000人で4,200万円、1万人で4.2億円です。ここからCAC、人件費、AI/API、サーバー、CS、開発費を引きます。低単価だから悪いのではなく、低単価を選ぶなら「大量獲得・継続・低い提供原価」を同時に成立させる必要があります。

08 · INVEST IN THE BOTTLENECK

ボトルネックにだけ、レバレッジを掛ける

スケール投資は「全部増やす」ことではありません。今いちばん成長を止めている場所に、人・広告・コード・資金を集中します。

DISTRIBUTION

顧客が足りない

広告、SEO、YouTube、紹介、代理店。先にCACと転換率を測ります。

PEOPLE

提供能力が足りない

採用、外注、教育、権限移譲。先に標準手順と品質基準を作ります。

CODE / AI

同じ作業を繰り返している

自動化、アプリ、AIエージェント。顧客が払う価値を壊さない範囲で置き換えます。

PRODUCT

売れるが利益が薄い

価格、プラン、原価、アップセル、提供範囲を見直します。

CAPITAL

回収可能だが現金が足りない

借入・出資は「伸びる仕組み」へ入れます。赤字構造の延命には使いません。

PARTNERSHIP

自社だけでは届かない

代理店、提携、共同販売。誰が顧客を持ち、誰が提供責任を持つかを明確にします。

いまのボトルネック投資する先
リードが足りない広告・YouTube・営業へ投資する
商談のCVRが低いセールスの改善(台本・提案・価格の見せ方)
提供工数が限界外注・アルバイト・標準化(→ 7-4 人のレバレッジ
同じ質問が大量発生FAQ・教材・AI化
手作業が大量発生システム・コード
低単価で顧客数が不足プロダクト開発ではなく、まず集客エンジンを検証する
人を増やす前に、仕事を理解する。
広告を増やす前に、CACを理解する。
アプリを作る前に、顧客が払う理由を理解する。
09 · EXPLAIN THE BUSINESS

従業員・パートナーへ「事業の数式」を共有する

人が増えると、経営者の頭の中だけでは事業は動きません。「もっと売ろう」「アプリを作ろう」「SNSを伸ばそう」ではなく、なぜ今それをやるのかまで共有します。

  1. 現在地:いまは0→1、再現性、1→100のどこにいるのか。
  2. 顧客:誰の、どんな課題・欲望に対してお金をもらっているのか。
  3. 商品と価格:何を、いくらで、どの提供モデルで売るのか。なぜその順番なのか。
  4. 競合比較:どの会社をベンチマークし、売上・利益・人員・価格から何を学んだのか。
  5. ユニットエコノミクス:ARPU、粗利、CAC、LTV、損益分岐、1人あたり売上の目安。
  6. 今のボトルネック:集客、販売、提供、採用、開発のうち、どこが成長を止めているか。
  7. 役割とKPI:誰が何を決め、どの数字を改善し、どこまで責任を持つか。
  8. やらないこと:今は投資しない領域と、方針を変える条件・期限。

悪い例

「YouTubeを伸ばしてください。」
——何のためか、どの数字につながるのかが無い。作業指示であって、仕事の依頼ではない。

良い例

「現在の最大ボトルネックは有効リード数です。広告の実測CPLは2,500円なので、広告だけで100リードを取ると約25万円かかります。そこでYouTubeからの流入を増やして全体のCPLを下げたい。今月お願いする仕事は、そのための企画と投稿です。」

背景を説明しないまま、従業員に「投稿を増やせ」「開発を急げ」「売上を上げろ」とだけ伝えると、現場は部分最適になります。経営者は「何の数字を、なぜ変えるのか」を共有します。
従業員への説明は、経営者自身の理解度テスト

説明できない場合、従業員の理解力の問題ではなく、経営者自身がまだ事業構造を理解できていない可能性が高い。毎月、または重要なフェーズ変更のたびに、下のワーク「事業の一枚」を更新して共有します。

10 · YOUR ONE PAGE

ワーク:従業員へ共有する「事業の一枚」を作る

読むだけで終わらせません。自分の事業を入力します。この端末に自動保存されるので、毎月更新して使い回してください。数字は3分類——分からない欄は空欄のままでかまいません(壁打ちAIが一問ずつ聞いてくれます)。

1. 事業

1分で他人に説明できる形で。

2. 数字(3分類で書く)

埋まらない欄は空欄でOK。推計には「推計」、仮説の数字を実績の列に書かないこと。

指標① 外部ベンチマーク② 自社仮説③ 自社実績
月商
粗利
営業利益
CPL(リード1件の獲得費)
CAC(顧客1人の獲得費)
CVR(成約率)
LTV(顧客生涯価値)
継続率

優先順位は ③実績 > ①ベンチマーク > ②仮説。実績が1件でもあれば、仮説より実績で判断する。

3. ボトルネック

投資はここで決める。ボトルネック以外に投資しない。

4. 人

詳しくは 7-4 人のレバレッジ で。ここでは棚卸しだけ。

5. チームへの共有

「やらないこと」まで書けたら、共有の準備完了。

ケース数値の出所例:株式会社Progateの公開情報・決算公告、Progate関連取材、株式会社エフ・コード「株式会社デイトラの株式取得」に関する開示資料等。競合比較では、実績・推計・調整後利益を必ず区別する。数字は確認時点のもので、今後変わり得る。
11 · PASS CONDITIONS

このフェーズの通過条件

全部にチェックが付いたら、投資の意思決定に進みます。付かない項目が、次にやることです。

  • 自社の商品と顧客を1分で説明できる
  • 競合3社以上の経済構造を比較した
  • 自社のCPL・CAC・CVR・LTVを説明できる
  • 仮説値と実績値を区別できる
  • 100人→1,000人→1万人のP/Lを描いた
  • 現在の最大ボトルネックを1つ言える
  • 人・広告・コードのどこへ投資するか説明できる
  • 正社員を採用する必要があるか説明できる
  • 外注できる仕事を3つ以上出せる
  • 人材をどこで探すか決めた
  • 従業員・パートナーへ今月の戦略を説明できる
  • 30日後に見直す実績数字を決めた